バランスシートの見方

世の中には、株式投資するのに「貸借対照表のこれだけを押さえておけばいい!」みたいな”まやかしの情報”が出回っていますが、自分が投資する会社を買う立場であればどうでしょうか?

きっと誰もが、隅々まで内容を把握しようとすると思います。

株を買うということは、自分が選んだ企業のビジネスの一部を保有することになります。

特に、バリュー投資のように資産として株を保有する場合は、その傾向が強いので貸借対照表のすべてを把握する必要があるのです。

一方、貸借対照表の中身は、短中期的には株価と連動性がないのでトレードのような投機活動には必要ありません。

もし、トレードする際に、あなたが選ぼうとした企業に致命的な危険が潜んでいれば、証券会社のアプリにアラートが出てきて、あらかじめスクリーニングすることができます。

記事の内容は、自分がバリュー投資をするときのメモとして残しておきましたので、あなたと情報をシェアできれば幸いです。

前半部は、貸借対照表の概要を知るための基本編、後半分では、実践で株式投資をするときに必要な点や注意すべきポイントについて書きました。

貸借対照表とは?

貸借対照表の役割を簡単に言うと、企業が保有している資産と借金の内訳を確認するものです。

最初に覚えておくべき点は、貸借対照表が決算日時点での状態を表していることです。

貸借対照表は、いつでも作成可能であり日々変化していますが、投資家が見ることができるのは、四半期ごとの決算短信が発表されるときだけです。

投資家として貸借対照表から読み取るべき情報は、財務の健全性、株価と比較した時の割安度、ビジネスの優位性です。

貸借対照表の基本

貸借対照表は、下図のように、左に企業の資産、右上に負債、右下に純資産について書かれています。

貸借対照表の簡単な内訳

上図から分かるように、負債と純資産を足した数字は資産と同じになります。

計算式:資産 – 負債 = 純資産(自己資本)

右と左の数字の合計が同じになることから、貸借対照表はバランスシートとも呼ばれます。

簿記や株の基本書では、上のように右と左に分けて載っていることが多いですが、企業が発表する決算短信では、下図のように、1列で表示されていることが多いので面喰らわないようにしましょう。

決算短信に記載されている貸借対照表の様式

貸借対照表を勘違いして読まないようにするための重要な注意点は、負債や純資産の項目です。

例えば、負債や資本金は企業がどこからお金を調達したのか表す数字ですが、現在実際にあるお金ではありません。

負債をどのように使ったのかが資産の部に振り分けて記載されていて、現金のほか、商品在庫、店舗となる建物、土地などに変化しています。

同じように、資本金5億でも手元に5億円の現金があるわけではありません。

あくまで借入証明書や出資証明書があるだけなので注意してくださいね。

では、3つの区分の概要について解説していきますね。

資産の部の概要

貸借対照表の資産の部には、「現金、売掛金、棚卸資産、土地、生産設備など」企業のあらゆる財産が記載されています。

そして、企業の財産は、流動資産非流動資産に大別されています。

流動資産とは、1年以内に現金化できる資産を言います。

主に、現金および現金同等物、短期投資、売掛金、棚卸資産、その他流動資産があり、基本的に流動性の高い順に書かれています。

一方、非流動資産とは、現金化に1年以上かかる資産のことを言います。

主に、土地および生産設備などの有形固定資産、のれん代などの無形固定資産、長期投資などの投資その他の資産があります。

負債の部の概要

貸借対照表の負債の部には、流動負債固定負債(非流動負債)といった企業の借金が記載されています。

流動負債は、1年以内に返済が必要な負債のことを指し、買掛金、未払費用、短期借入金、長期借入金満期分などがあります。

一方、固定負債は、返済期限が1年以上の負債を言い、退職給付、繰延税金、長期借入金、社債などがあります。

純資産の概要

純資産には、資本金、株主資本、普通株、資本剰余金、利益剰余金などがあります。

純資産も負債と同様に、資産のどれかに振り分けられているイメージを持ってください。

例えば、利益剰余金と内部留保が勘違いされることが多いですが、利益剰余金は次の成長戦略の運転資金になるわけで、実際の企業の蓄えとは別になります。

最後に、自己株式は、自分で自分の会社の株を持っているのでマイナス記載されます。

株式投資に必要な項目と実践的な見方

ここでは、貸借対照表から一般的な企業か優良企業かを見極めたり、同業他社に比べて優位性があるのか読み取るための見方を解説します。

貸借対照表を読むときは、最新のものだけでなく、少なくとも過去7年~10年の数値を見て分析しなければ正確な実態を把握することができません。

それでは、資産の部・負債の部・純資産の部の中から重要なポイントを順番に解説してきますね。

流動資産で企業が有利な経済活動をしてるかチェック

貸借対照表の流動資産からは、企業のビジネスの過程や安全性、優良性を知ることができます。

企業の経済活動は、現金を棚卸資産(在庫)に変えて、それをお客さんに売却して売掛金となり、やがて現金となります。

これが企業の利益の源になるわけですね。

そして、現金および現金同等物の多寡で、企業の安全性や不況がきたときでも乗り切れる体力があるかどうかを判断します。

基本的に、現金および現金同等物が少なければ、急に負債が多くなった場合、大きな危機を迎えることになります。

ということは、現金および現金同等物が多ければいいということになりますが、それほど単純ではありません。

現金および現金同等物が豊富である理由は3パターン想定できます。

  1. 社債を発行した時
  2. 資産を売却した時
  3. 本業のビジネスで大きな利益を出し続けているとき

上の1と2は、一時的に現金および現金同等物が増加しただけの場合もあるので注意が必要です。

そして、優良企業の目安になるのが3番ですが、1つの貸借対照表だけでなく過去の貸借対照表を合わせて結論を出すことが重要ですよ。

そして、借入金に対して現時点でどのくらいの返済能力があるのかを見る流動比率がありますが、現金が豊富な企業は流動比率の割合が高くなります(流動比率が100%を超えていれば返済能力があり、とりあえず安心できる)。

ただし、流動比率が低くても優良企業である場合もあるので注意が必要です。

もし、企業に安定した高い収益力があれば、流動資産を配当や自社株買いに使うことによって流動比率が低い場合もあるのです。

安定して高い収益力を生む企業は、稼ぐ力のほかに信用力が高いのでコマーシャルペーパーのように無担保でお金を借りることができるので憂うことはありません。

ただ数字を見るだけでないことが分かってきたら、自分でも優良企業を探し当てることができそうな気がしてきませんか?

この考えは、負債と純資産の比率を表した負債比率にも同じことが言えます。

負債比率は、負債合計÷純資産合計で表すことができ、一般的には、数字が低いほうが優秀となりますが、流動比率と同じ理由で杓子定規に解釈してはいけないということです。

在庫からニーズがある製品を提供し続けられてるかチェック

優良企業は、長い間ヒットしている商品を中心に安定して顧客のニーズに答えることができるため、在庫の動きも安定しています。

こういった企業は、純利益と一緒に棚卸資産が増える傾向にあります。

一方、一過性の企業の場合、顧客のニーズに答えられたり、答えられなかったりするので、会社の在庫の増減が激しくなります。

もし、あなたが資産保有として株式投資するなら、在庫のニーズに浮き沈みがある企業の株を保有するのは危険であり、過去から現在までの貸借対照表の棚卸資産でしっかりと見極める必要があるのです。

販売した商品の利益が貸し倒れるリスクは売掛金から判断

企業が取引先に商品を販売する場合、相手が企業なら商品を渡した何ヶ月か後にお金を支払う契約を結ぶことが多いです。

この取引は、商品を渡したときに売掛金となります。

どの企業でも決済を遅らせてくれる相手を好むので、決済までの日を先延ばしすれば契約が取れやすくなります。

しかし、商品を渡した後、相手の支払い能力がなくなれば貸し倒れする可能性がでてきます。

企業は、このリスクをあらかじめ貸倒準備金として計上しています。

もし、優良企業であり、取り扱っている商品が多くの人から望まれているものであれば、決済までの日を延長するという交渉をしなくても契約は決まってきます。

それにともない売掛金は少なくなるのです。

あなたが貸借対照表を確認するときは、同業他社と比較して売掛金が一貫して少ないかどうかを見るといいでしょう。

生産設備を見ることでビジネスの有利さが分かる

取り扱っている商品を常にアップデートしなければ、業界で生き残れないビジネスモデルの企業であれば、生産設備を常に最新の状態に保つ必要があります。

そうすると、せっかく稼いだお金をどんどん設備増強に使わなければなりません。

ときには、稼いだお金だけでは足りないので、外部から借り入れるすることになるでしょう。

一方、安定したヒット商品を提供している企業であれば、生産設備をきちん減価償却してから建て替えをすることができます。

こういった企業は、外部からお金を借りずとも自分たちのお金で賄うことができるのです。

もしあなたが、自分で会社を経営するならどちらの会社を選ぶでしょうか?

無論、後者ですね。

のれん代から将来性を探る

のれん代は、買収した企業の純資産と買収した金額の差額です。

通常、買収した企業の純資産より買収する金額の方が高くなるので、純資産より多く払った差額を記載するわけですね。

企業買収は、買収先の企業が優良であれば、平凡な企業でも成長する可能性がでてきます。

一方、見かけだけ大きいからといって平凡な企業を買収すると、その後の成長は期待できません。

普通はありえませんが、優良企業がなんらかの理由で純資産より安く売り出されたのを買収できれば、平凡な企業でも大きなチャンスを掴むことができます。

そういった観点から、のれん代を読み解いていくといいですよ。

のれん代と同時に、長期投資の項目も確認すると、経営陣が優れた企業に投資しているかどうかを確認できます。

買収と同様、平凡な企業でもすぐれた企業に投資していれば大きな資産を築くことが可能なんですね。

無形資産だけでは投資先のブランド価値は分からない

無形資産とは、第三者から手に入れた特許権や著作権、商標、フランチャイズ、ブランドなどの目に見えない価値を測定して計上したものです。

一方、自社が長年かけて作ってきたブランド価値などは、不正防止のため計上することはできません。

よって、無形資産だけでは、企業の本当のブランド価値を測ることはできないのですね。

自社ブランドの価値を把握するには、過去から現在までの損益計算書を読み解く必要があるのです。

総資産利益率(ROA)の本質

総資産利益率(ROA)は総資産のうち、どのくらい純利益があるか見る指標で、純利益を総資産で割って%に直せば計算できます。

通常、ROAが高ければ企業が効率よく資産を回しているので良いとされるのですが、ここには落とし穴があります。

例えば、少ない資産で高い利益率を出している企業があるとすると、優秀ではあるが、そのビジネスモデルは少ない資産でも可能であることを示し、他社の参入障壁が低いことを意味します。

短中期の成長株投資としては、投資先に選ぶことができるかもしれませんが、一生保有するつもりの資産株としては心許ないかもしれません。

一方、ROAが低くても大きな資産を持っていれば他社の追随を振り切ることができるでしょう。

この辺が本質になるのでROAが高いから、低いからだけで投資すべきではなく、きちんと中身を見る必要があるのです。

短期借入金は総合的に判断する

すでにお話したとおり、年度内に返すべき借金と債務が短期借入金に計上されています。

ところが、買掛金、未払い費用、その他流動負債は、単独で見ても企業の経済活動を理解することはできません。

もし、収益が低い企業の流動資産より流動負債が多ければ返済に苦しみ、下手をすれば倒産するリスクがあります。

ただし、収益力が高い企業は、信用力が高いので無担保でお金を借りたりして、難を乗り切ることができるのです。

このように、投資先候補の企業がどのような戦略でお金を回しているのか把握しようとすることが大事なんですね。

長期借入金から優良企業をスクリーニング

もし、あなたのビジネスの収益力が安定的に高く、大きな純資産を築いていれば長期の借入れをするでしょうか?

基本的に、短期借入より長期借入の方が利子が高いので、わざわざ必要のないお金を借りることはしないでしょう。

なぜなら、必要なお金は短期借入れで回すことができるし、事業拡大や事業買収は自己資金で賄うことができるからです。

ここから分かることは、資産として投資対象にすべき優良企業には、長期の借入金がほとんどないことです。

そして、これは直近10年間の長期借入金の額をチェックすると判別がつきますよ。

財政面が悪い企業に長期借入金の満期が一気に訪れると倒産する可能性があるので、そういう企業は投資対象から外すべきです。

株主資本利益率(ROE)は稼ぐ力を表す最も重要な指標

株主資本利益率(ROE)とは、純資産に対して企業がどのくらい収益を上げているか表す、いわば利回りのような指標です。

関連記事ROEとROAを使った株式投資の分析方法【目安も解説】

稼ぐ力を端的に表すROEは、優良企業を見極める上で最も重要です。

ただし、このROEもただ数字が高いだけで選ぶのは危険です。

企業の純利益の使い方は、株主還元の配当や自己株式取得、事業拡大のためのビジネスへの再投資があります。

この中で自己株式の取得は、発行株式総数を減らし、純資産の部でマイナス計上されるので、自己株式が増えるほどROEの数字が高くなります(母数が小さくなるので)。

そうすると、稼ぐ力があってROEが高くなっているのか、自己株式の取得を多めにやってROEが高くなっているのか、またはその両方なのか判別できません。

これを防ぐには、マイナス計上された自己株式をプラスで計算してみると、その実態が見えてきます。

もし、大きな負債を持ってROEを押し上げているのであれば、企業のサイクル次第では、成長株投資ができますが資産株としては向いていないことになります。

最後に余談となりますが、利益剰余金は、実際に現金としての内部留保になっているわけではないですが、ビジネスへの再投資や配当、自己株式の施策をきちんとしているのに、利益剰余金の数字を積み上げられているのは、強い企業の証拠です。

こういった企業は不況に強く他社が追随しにくいんですね。

これは、純資産を発行済株式総数で割って計算されるBPSという指標の考え方になります。

資産運用に悩んでる人・将来の不安がある人へ

はじめに厳しいことを言って恐縮ですが、資産運用したいけど何から始めればいいか分からなかったり、なんとなく将来への不安がある人は、資産運用・資産形成術などお金全般に関する知識と行動力が足りていないと言わざるを得ません。

ただ、お金に関する正しい知識を得るには、正しい情報を取得しなければいけませんが、今の情報社会では、どの情報が正しいのかを取捨選択することも難しいものです。

書店に並ぶ本は、確かにネットと比べて情報が整合されていいて、良い情報が多いです。

しかし、本は売らなければならないので、どうしても大衆迎合した内容になってしまいがちで、本当のところを具体的に解説してくれるものは皆無といっていいでしょう。

私もお金に関するセミナーに参加したり、数えきれないほどの書籍を買い漁りましたが、結局、多くの人が語ることの共通点を見いだし、自分で考えるしかないのです。

ところが、マーク・フォードという人が書いた大富豪の投資術という本は、お金の本質を書いている数少ない本の一つでした。

彼は、私たちと同じで親が金持ちでもなく平均以下の収入しかありませんでした。

そんな彼が大金持ちにアンケートをとり、ゼロからどのように資産を築いたのか?また、投資と聞くと金融商品を思い浮かべると思うのですが、私たちが人生を生きる上で必ず通る、すべてのお金に関する形成方法から防衛術まで事細かに解説されていたのです。

もし、あなたが今の生活を抜け出す一手を探しているのなら彼の書籍を読むことから始めるといいと思います。

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